【本日のテーマ】「喉まで出かかっている」
今回は、何かを思い出せそうで思い出せない時に使う英語表現が登場します。さっそく、ポイントをおさらいしてみましょう。
◆日本人が間違えやすいポイント
大学の同窓会で久しぶりに再会した友人同士が会話を楽しんでいる場面。ひとりが、少し離れた場所にいる男性を指差して、彼は誰だっけ?顔を覚えているのに名前が思い出せないと言うと、それに対してAh, his name is… it’s on the tip of my tongue… と別の友人が返答します。これを聞いた日本人は、「on the tip …」 を「オンザティップ」という名前だと勘違いし、That’s quite a unique name!(すごいユニークな名前だね!)とかみあわない返事をしてしまいます。
会話をしているとき、「え~と何だったっけ…喉まで出てきてるのに…」「ほら、あれあれ、ここまで出かかっているんだけど…」と、言おうとしている名前や言葉などがぱっと思い出せないことがありますよね。今回のフレーズon the tip of one’s tongue は、そんなシチュエーションで使うのにぴったりの表現。
on the tip of one’s tongue は、直訳すると「舌先で」ですが、「(思い出そうとしている言葉などが)喉まで出かかって、口先から出かかって」という意味のイディオムとして使われています。
It’s on the tip of my tongue. は「それは私の舌先にある」という直訳になりますが、「喉まで出かかっている(けど思い出せない)、口から出かかっている(のに出てこない)」という意味になります。日本語では「喉」まで出かかると表現するのに対し、英語は「舌(tongue)」を使って表現するのがおもしろいですね。名前や言葉が思い出せそうなのにすっと出てこないもどかしさを伝える言い回しとして、日常会話でよく使われます。
会話例で使い方を確認しましょう。
<会話例1>
A: What was the name of that restaurant our parents loved?
両親が好きだったあのレストランの名前、何だったっけ?
B: It’s on the tip of my tongue, but I can’t think of it right now.
喉まで出かかっているんだけど、今思いつかないな。
A: Hmm, it was something like “The Golden…”
うーん、「ザ・ゴールデン…」みたいな感じだったわ。
<会話例2>
A: Who painted this?
これを描いたのは誰?
B: Ah, his name is on the tip of my tongue. I’ll look it up.
あ~、名前が喉まで出かかっているんだけど。調べてみるよ。
A: He’s known for using a lot of blue tones.
青い色をたくさん使うことで知られている画家なんだ。
<会話例3>
A: What’s the name of the actor in this beer commercial? Oh, it’s on the tip of my tongue!
このビールのCMに出ている俳優の名前は何だっけ?ああ、ここまで出かかっているのに!
B: Haha. You asked me that before. Do you want a hint?
ははは。以前も僕に聞いたよ。ヒントが欲しい?
A: Yes, please! I really can’t remember his name.
ええ、お願い!本当に彼の名前が思い出せないわ。
It’s on the tip of my tongue. のように「思い出せそうで思い出せない」ことを伝えるフレーズとして、
I should know this.(これは知っているはずなんだけど)
Let me think.(ちょっと考えさせて)
I know I know this.(確かにこれは知っているんだ)
I wish I could remember.(思い出せたらいいのに)
などもぜひ覚えておきましょう。
◆さらに応用TIPS!
今回のキーフレーズに登場した tongue には「舌」のほかに「言葉」「言葉遣い」「言語」といった意味もあります。tongueを使ったさまざまな英語表現をご紹介します。
●have a sharp tongue:毒舌である、ずばずばモノを言う
<例文>
Although she has a sharp tongue, she means well.
彼女は毒舌だけど、悪気はないんだ。
*sharp tongueは「鋭い舌」という直訳から「毒舌、辛辣な物言い」という意味に。
●watch one’s tongue:言葉に気を付ける
<例文>
That sounded rude. You’d better watch your tongue in meetings.
それは失礼に聞こえたよ。会議では言葉に気を付けたほうがいい。
*watchは「注意する、気を付ける」。
●mother tongue:母語
<例文>
English is not my mother tongue.
英語は私の母語ではない。
*mother tongue(母語)は、生まれてから自然に身に付き、最初に習得した言語のこと。似た表現のnative tongue(母国語)は、自分の国で公的に採用されている言語を指します。
●tongue-tied:口ごもった、モノをすらすら言えない
<例文>
Whenever he tries to speak in public, he gets tongue-tied.
彼は人前で話そうとすると、いつも言葉に詰まる。
*-tiedは「縛られた、結びつけられた」という意味を持つ接尾辞。tongue-tied は「舌が縛られた」状態を比喩的に表現しており、そこから緊張感や恥ずかしさ、恐怖などが原因で舌が自由に動かない→思うように口が利けない、うまく話せないことを意味します。
●Cat got your tongue?:どうして黙っているの?
<例文>
You’ve been so quiet. Cat got your tongue?
ずいぶん静かね。どうして黙っているの?
*「猫があなたの舌を持って行ったの?(Has the cat got your tongue?)」という直訳から、何も話さない相手に「どうして黙っているの?」とたずねる決まり文句。日常会話では Cat got your tongue? のように Has the を短縮した形で使われることが一般的です。
●slip of the tongue:失言、言い間違い
<例文>
At the presentation, I accidentally mentioned the wrong company name. It was a slip of the tongue.
プレゼンで、うっかり間違った会社名を口にしてしまったよ。失言だった。
*slip には「滑ること」のほかに「誤り、間違い」という意味があります。
漫画イラスト: 高篠裕子